ライブ・コンサート

  • 2003年5月5・6日 安曇野
  • 「アルプスの、もと少女・あみ」

【安曇野へ出発】

6:30am起床。薄曇り。
8:20amに新宿到着。駅で偶然、ピアニストの豊島裕子さんと一緒になる。
二人で地上に出て高速バス乗り場へ向かい、作詞&作曲をされた、津金佳世子さんご夫妻、
水島先生のCDの時からお世話になっている、OFFICE CRANEのコーディネーター・鶴本さん、
音楽之友社の古山さんと合流。
さあ、いざ松本へ!

案外空いているバスの中で、ほんのちょっぴり遠足気分。
道中、思いがけないことが判明。何と、古山さんは大学の同期生だったの。
しかも、私が寮で仲良しだったMちゃんと、高校からの付き合いなんだって。
同じキャンパスで同じ時を過ごしていたのね〜、と二人ではしゃいでしまった。
前回のレコーディングの時には、ほとんどお話できなかったから、全くわからなかった。
こんなこともあるのねえ。
松本から電車に乗り換え20分。「穂高」という駅に到着。

アルプスの、もと少女・あみ


電車に乗っている時から、北アルプスの峰々が見えていたのだけれど
何て素敵な所なんだろう!
これから待ち受けている過酷な(?)ひと時を、皆でしばし忘れてた。
今回のお話を薦めてくださった、ディレクターの明比さんと、調律技師の戎居さんが
駅までお出迎え。
彼等はセッティングの為、朝6時半頃、東京を出発していたらしい。ご苦労さまです。

そこら中にある、わさび田の脇を5分くらい車で走ると「あずみ野コンサートホール」という
小さな白い建物が見えてきた。
2日間、ここでレコーディングをするのだ。
辺りは、田んぼだらけ。田植え前の準備段階で、水がはってある。
一面にれんげが咲いている田んぼもあった。まるで、私の田舎に帰ってきたみたい。

アルプスの、もと少女・あみ


暑いくらいの日差しを背に受けて、ホールの中へ。
喫茶店とくっついて、100人ほど入れるホールがあった。
以前コンサートをした、原宿のアコ・スタジオにちょっと雰囲気が似ている。
木の壁、木の床が気持ちいい。小窓もたくさんあって、絵が飾ってあるような感覚で
外の景色が視界に飛び込んでくる。
茶色のベーゼンドルファーもカッコイイ。(音もよかった〜)
ステージの裏には小川が流れていて、くつろげるスペースもある。
環境は言うことなし!

アルプスの、もと少女・あみ


柔軟体操をする為に持参していた体操服(?)に着替え、ストレッチをしていたら
後で、津金さんのご主人が「とても驚きました」と仰ってた。
う〜ん、確かにビックリなさるかもね。
私にとっては発声練習よりも大事なこと。
朝、早かったことと、長時間バスに揺られたこととで、心配された声は何とかOK。
いよいよレコーディング開始。

 

【ダメ出しと葛藤】

「からすのえんどう」という私の好きな歌から始めたのだけれど
いきなり津金さん(以下、佳世子さん)から猛烈なダメ出し。
「全くダメですね!」
かなり厳しい口調だったので、あと少しのところで立ち直れなくなるギリギリのプレッシャーを
感じながら、気分を変えて再度…。
あの時、皆がヒヤッとしたんだって。
でも、私が一番青ざめてたと思う。

水島先生の時と同じ、マイクなしの録音。クラシックの人が録るやり方だよね。
これって、ものすごくキツイ。私にとっては、普段唄ってる、10倍くらいのしんどさ。
でも、明比さんを信じて唄うしかない。
前回の時から明比さんには、私も豊島さんも絶大な信頼を抱いている。
彼が「こうしてみたらどうかと思うんですよ」「こんな風にしてみませんか?」と
提案される通りにしてみると、なるほど…絶対によくなっているのだ。
さすが!
物腰の優しいお人柄も100点満点。
1曲録音し終えては、戎居さんがピアノの状態を作りかえていき、よりいい音へと導いてくれる。

アルプスの、もと少女・あみ  アルプスの、もと少女・あみ

ミキサー室では、前回に引き続いて優しいエンジニアの北見さんが…そして、
知る人ぞ知る「録音の神様」と呼ばれている岡田さんが空気のようにいてくださった。
豊島さんのピアノは、相変わらず素晴らしいし、豪華メンバーだ。
あとは、私の歌だけ。

佳世子さんの言葉が胸に突き刺さって、平静にしているのがやっとだった。
引き受けた以上、彼女に心から気に入ってもらえる歌を唄わなければならない。
ふと、2日間で録り終えることができるのかしら…もしかして私は却下になってしまうかしら…
等と考えてしまった。
佳世子さんの要求されていることはよくわかる。でも、頭で理解できても、それを表現できるかどうか
全く自信がなくなっていた。
今だから言うけれど、逃げ出したい気持ちでいっぱいだったの、あの時。

だけど、個人でCDを作る…ということが、どれほど大変なことかが痛いほどわかっているから
しかも、自分のオリジナル作品に対する思い入れというものが、どれほど大きいものかも
わかっているから、とにかく踏ん張った。
いつもは気持ちの切り替えが上手くいかない私だけれど、安曇野の自然の中で大地の「気」の
助けもあったのか、自分で驚くほどプラスにプラスに考えていくことができたように思う。
まず…佳世子さんをもっと感じよう、と思った。
敢えて、真正面から彼女に向かっていく方法を選んでみた。
これは、私にとっては大きな賭けだった。

結果、このことがとても良かったように思う。
佳世子さんと私との間で、何かが通い合う瞬間が生まれ始めた。
リハーサルの時にも感じたけれど、彼女は心で全てを感じとる人なので、私の歌の
変化を少しも見逃さない。何もかも、見透かされてしまう。
「今のは嘘ですね」「今のは違う。ここはこういう心情なんです」「私のことは何も考えず、
あみさん自身の心で唄ってください」「もう何も言うことがないほど素敵でした!」etc……。
1曲唄い終える度、「夕鶴(鶴の恩返し)」の「ツウ」の気分。
心のエネルギーをすっかり使い果たして、空っぽになっていく。
その度に、ひっくり返って休み、パワーを補給。
本当に命懸けで唄っている気がした。

お昼に食べた、ガソリン(お蕎麦)が切れてきた頃が一番キツかった(笑)
古山さとちゃんが、柏餅を食べさせてくれたので、その後は元気いっぱい。
皆で、表に出てしばらく休憩。

アルプスの、もと少女・あみ  アルプスの、もと少女・あみ


 

【森のくまさん】

日も暮れて、外で蛙の超・大合唱が始まった頃、5曲目を録り終えて初日は終了。
最後に唄った「ふるさとへ」という歌を、佳世子さん、豊島さんが「涙が出そうだった」と
言ってくださった。これも、明比マジックのおかげ。
ホールを後にして、一同、山奥(?)の宿へ。本日の宿泊先は「セミナーハウス花村」。
ここで車を降ろされたら、怖くて1歩も歩けない…というほど森の中。
宿の食事は最高だった。お腹がペコペコだったので、まあ、食べるわ食べるわ…。
身が細るはずの「夕鶴・ツウ」は、たちまち「ドラえもん」に生まれ変わってしまった。あちゃ。

温泉があるというので、食べ終えてから女性4人で出かけた。
温泉に入るには、真っ暗な森の中を2分ほど歩かなくてはならない。
懐中電灯を各自持たされて、歩く森はほんとに怖い!ご主人に「音を立てながら歩いてください」と
忠告される。…え?…ということは、クマが出るの〜???
2分の距離が10分に思えた。
あまりの恐怖から、私は歌を唄いながら歩いた。
選んだ曲は「森のくまさん」!
「ある〜日、森のなか〜、くまさんに〜」と高らかに(?)唄っていたら、豊島さんに
「あみさ〜ん、その歌怖いからやめて〜〜〜」と言われてしまった(笑)

無事に、生きてたどり着いた私たちは(大袈裟だよね)早速、極楽浄土…じゃなくて極楽温泉へ。
お腹いっぱい食べた後だったので、お腹をへっこませようとしても無理だった。
恥ずかしかったよ〜。
お風呂から出たら、男性陣がちょうど宴会(?)を始めようとしているところだった。
皆、風呂上がりのビールに、後ろ髪を引かれたけれど、グッと我慢。
へとへとの身体を休ませて、明日に備えなければ…。

宿では一人ひと部屋、ということだったんだけれど、私が渡された部屋の鍵には
何故か「図書室」と刻まれている。皆は部屋番号なのに。
まさか、と思ったけれど本当に図書室!窓にはカーテンがないし、ドストエフスキーの本たちが
やたらと怖く感じられて、怖がりの私はすっかり音をあげてしまった。
そのまま、古山さとちゃん(以下、さとちゃん)の部屋に転がりこんで、同い年の友好を深めることに。
まるで修学旅行だね。
おかげで、怖い思いをすることなく、ぐっすり眠ることができた。やれやれ。

 

【マイナスイオン効果?】

8:00amから朝食、ということだったけれど、二人してギリギリまで睡眠。
目が覚めたら、身体がバキバキで動かなかった。
優しいさとちゃんが、ソフトにソフトに背中と腰をマッサージしてくれた。何ていい人なんだろう。
身体に血が通い始めるのがよくわかる。
「いい歌を唄ってくれれば、それでいいから」と尽くしてくれるさとちゃん。
はい、がんばります!さとちゃんも疲れていたよね、ごめんね。

お化粧する暇もなく食卓へ。
う〜〜〜、スッピンを皆に見られてしまった。たいして代わり映えもしないだろうけれど
でも、やっぱりねえ…。何となく、照れくさい。
しかし、朝食の美味しさに、そんなことはどうでもよくなってしまった。
とにかく食べないことには、もたない。
「皆で食べれば怖くない!」と全員必須でニンニクも食べた。

朝食後、わずかの時間を使ってもう一度温泉へ。身体をほぐしたかったから。
豊島さんも指馴らしをしたいから、と一緒にコテージへ行き、ピアノの練習。
夕べ歩いた路が、えらく短く感じられた。小川も流れているし、マイナスイオン効果、抜群ね!
豊島さんのピアノの音色を堪能しながら、さとちゃんと湯舟に浸かった。
「贅沢だよね〜、ピアノを聴きながら、なんて。」と、至福のひと時。

10:00am前にホールに着いて、入念にストレッチ。
気持ちの方も、なかなかいい具合にほぐれている気がした。
「テンションも低くないし、よし、これならイケるぞ」という気持ちがみなぎってきた。

佳世子さんが、あれこれ本当に気遣ってくださって、そのお気持ちがとても嬉しかった。
「大丈夫だから」と言っても、小さな身体で、私の荷物を持ってくださったり…彼女なりに
「何か、できることをしてあげたい」と思ってくださったのね、きっと。
そこにいてくださるだけでホッとする鶴本さんの笑顔と、すっかり仲良しになってしまった
さとちゃん、そして佳世子さんの温厚なご主人さまに見守られて、録音再開!

アルプスの、もと少女・あみ

リハの時、最も苦手だと思っていた「記念樹」という歌が、嘘みたいに自然に唄えた。
これは、佳世子さんとご主人さまの記念の歌。
まるっきり新婚に見えるお二人は、実は結婚15周年目。あのラブラブの秘訣は何だろう?

アルプスの、もと少女・あみ

お互いに慈しみ合われているのが、手にとるようにわかる。素敵だな。

 

【もうひと息】

なかなか思うようにいかない歌もあったけれど、それでも何とか残りの3曲を録り終えた。
ディレクターの明比さんが、昨日録った「子守歌」をもう一度、録り直したい…と仰ったので
昼食後に唄うことにした。
コンサートホールのオーナー(なのかな?)、内山さんや館長の長谷川さんと名刺交換。
パリ祭のチラシも、ちゃっかりお渡ししてきたよ〜!^-^

アルプスの、もと少女・あみ

豊島さんと二人でテラスに出て、外の空気を吸いながら、ランチ。
豊島さん、カレーが食べたかったのだけれど、品切れ。
かなりガッカリしたみたい。

すぐ真上に、ツバメの巣があったものだから、私は親ツバメの威嚇攻撃を頭に受けてしまった。
何がぶつかってきたのか、一瞬わからなかったよ。

アルプスの、もと少女・あみ

れんげ畑にはミツバチが飛び交い、隣の水田では、蛙が時々鳴いている。のどかだ。
山の頂きに、まだ雪が残っているのが見える。

あと、ひと息。胸が熱くなるのを押さえて、「子守歌」の録り直し。
この歌は、男性陣に人気が高いらしい。佳世子さんは「子供がこんな子守歌をお母さんに唄って
もらえたら嬉しい感じ」を求めていらっしゃったけれど、明比さん曰く
「これは、男性が唄ってほしい歌でしょう」と仰っていた。佳世子さんのご主人さまも頷いてらした。
まあ、男の人は幾つになっても子供みたいなものだから…ね。な〜んちゃって。
3:00pm前には、全てが終わった。しばらく呆然として動けなかった。
一人になりたくて、裏の小川の傍に腰かける。日差しが眩しい。
澄んだ水のせせらぎ、と呼べるか呼べないか…ほどの微かな音が初めて聞こえてきた。
遠くでは、鳶の鳴き声。…終わったんだなあ。

ホールに戻って、佳世子さんたちと抱き合って、無事終了したことを喜んだ。
鶴本さんが、やっぱり温かく微笑んでくださっている。
豊島さんと表に出て、デジカメで写真を撮った。

アルプスの、もと少女・あみ  アルプスの、もと少女・あみ  アルプスの、もと少女・あみ


 

【ハイジ?】

皆でピアノの前で、記念撮影!

アルプスの、もと少女・あみ

録音キャラバン隊は、これから更にどこかでレコーディングが待ち受けているらしい。
ここで解散となり、東京組は帰路へ。
駅までの道程、改めてアルプスの山を見て、皆で「ステキ、ステキ」とため息。
豊島さんが「アルプスの少女・あみですね」と言ったので、ボソッと「もう少女じゃないけど」と
つぶやいたら、鶴本さん…「アルプスの、もと少女・あみね」とつぶやかれた。
今回の旅行記タイトルが決定。少し悲しい気もするけれど…???

館長の長谷川さんが穂高の駅までお見送りにいらしてくださった。
堅く握手を交わして、再会を約束(?)
今度は遊びに来たいなあ。美味しいお蕎麦も食べ損なったし。
電車の中で、必死にパリ祭の譜読み。けど、途中で意識がなくなってた。
6:30pm頃、新宿に到着。佳世子さんが、各々に心のこもったお手紙をくださる。
ご主人さまが「こんなにいいものができて、本当に幸せです」と仰ってくださった。
緊張の糸が、プツリ…と切れる。

皆さん、本当にお疲れさまでした。そして、ありがとうございました。


家に着いた時、豊島さんからメールが入った。
「早速、お店でカレーを頼みました」って。うふふ。