ライブ・コンサート

  • 2003年
  • 「NHKホール」

<本番直前>

去年の「パリ祭」では、NHKホールが初日で、しかもNHKの
TV収録と重なっていたので私はすっかり舞台の魔物に
のみ込まれてしまった。
あれほどステージを怖い、と感じたことは初めてだったかも。
歌だけでなく、フレンチ・カンカンやら何やらダンスシーン
が多いのは初めてのことだったので、舞台袖で震え上がって
いたように思う。18才のShin太朗君に何度「大丈夫っすよ」
と肩を叩かれたことか…。お恥ずかしい限り。

今年は沼津公演が初日だったので、去年ほど舞い上がることは
なさそうだった。沼津を無事に終えられたことで、皆
手ごたえを感じているのではないかしら。
沼津終了後の1週間で何度もNHK用のリハーサルを
繰り返した。
前日に組み立てられるNHKホールの舞台。
誰もが真剣そのもの。普段ニコニコされている照明の
川原さんの表情もピリリ。
「あ〜、いよいよなんだ」と張り詰めた…でも心地好い空気を
感じる。
そして迎える本番当日。
受付でスタッフパスをもらってから、地下の楽屋へ。
「おはよー」と、いつもと同じようでいて、そうじゃない
村山奈緒美ちゃんの緊張しつつも元気な声が私を
迎えてくれる。
メイク道具を並べたり、稽古着に着替えたり…慌ただしい
女性5人の楽屋。

時々、くだらないことを話しては皆でケラケラ笑う。
まるで修学旅行に来た学生みたいな雰囲気。
でも、皆の顔はやっぱり真剣。
身体をほぐしてから場当たり。
それから衣裳に着替えて、通しリハ。
演出&振付けの立川真利先生のゲキが飛ぶことも…。
出番が終わっては、バタバタと楽屋に戻り、着替えて髪型も
チェンジしてまた次の出番の準備。本番では不可能なので
合間をぬって、先輩方のステージを会場で静かに拝見。
「さすがだねえ…」と呟く面々。それからまた、バタバタと
袖にまわってフィナーレのリハ。
そうして、気がつけば本番の時間。

 

<幕開け>

幕の向こうでお客さまのざわめきが聞こえる。
ステージでオープニングをご一緒させていただく
田代美代子さんや、コーラスの件でこれでもか、というくらい
お世話になった広瀬敏郎さんを始めとする男性の先輩方やバンドの皆さんに、
皆でご挨拶。
「よろしくお願い致します!」

NHKホール

まだ開演のベルが流れていない時から、すでにオープニングの
ポーズをキメて立っていたら、後ろでピアニストの
岩間南平さんが「今からそんなカチコチになって
どうするの〜。力を抜いた方が絶対いいんだよ」と仰った。
「そっか…」と内心思いつつも、顔はこわばったままだ、私。
けど、去年の瀬戸田公演の後で「僕も毎回、すごく緊張してる
んだよ」とお話されていたのを聞いているので
実は南平さんもアガっていらっしゃるのではないかしら…と、
ふと思ってみたりして。恐れ多くて…あ、間違い…
畏れ多くて、そんなこと口に出せないけれど。
緊張しない人なんて、ほとんどいないんじゃないかな。
「緊張」は決して、マイナスな精神ではないと思うし。
かえって、緊張した方がいいこともある。限度にもよるけれど…。

舞台監督の星さんが、幕開けを告げる。
不思議な快感が、身体の中を走る。
NHKホールのオペラカーテンが、重々しく上がっていく。
ん〜、たまらない、この感じ!

NHKホール

照明が落ちて真っ暗な中、会場いっぱいにミラーボールが
まわっている。実はこの日、ぐるぐるまわる明かりに、
目もまわってしまった私。
一瞬、足下がグラついた。後で、皆に笑われちゃった。

ピンクの揃いの衣裳で、気分は踊り子?

NHKホール

もともとはダンサーさんの衣裳を借りているので、細くて
初めはファスナーが上がらなかったの、私。その為に、
ウェストを3〜4cm、縮めました。がんばったわ〜。
そう言えば、去年の地方公演で…
岡田真澄さんが、フレンチ・カンカンの衣裳を身につけて、
舞台袖で待っていた私たちに「皆、ドレスがとてもよく
合ってるね」と声をかけてくださった。
私たちは声を揃えて「いいえ、私たちが衣裳に(身体を)
合わせたんです〜」とお応えしたものだから、可笑しそうに
なさってたっけ。今年も同じ展開だわ…。

 

<高木組>

お次に控えているのは、私たちのメドレー。
ウィッグを半ば剥ぎ取って、洗面所で髪をバシャバシャと
濡らし、整髪料を落とす。紫のミニ・ワンピースに着替えて、
アクセサリーも取り替えた。
(このドレスに合わせて、我らが嶋本秀朗王子がピッタリの
イヤリングをこしらえてくださった。王子はいつも、
皆に似合うアクセサリーを作ってくださる。
お忙しい方なのに…感謝感謝。)

NHKホール

靴も履き替えて、いざ出陣!
舞台袖に皆で集まって、円陣を組む。手のひらを順番に重ねて
「がんばろう、オー!」と小さな声で、叫ぶ(?)。
これが、いつもの高木組スタイル。

NHKホール

(*高木組…若手8人グループ。リーダーは高木椋太さん。
よって、通称「高木組」。
他に村山奈緒美さん、嶋本秀朗さん、ミカコさん、
岩崎桃子さん、山本理恵子さん、Shin太朗くん、あみ)

司会の永六輔さんと、メイ・ウェストに扮された
スタイル抜群の黒柳徹子さんが胸の話題で盛り上がっている中
高木組スタンバイ。意識を集中しよう、と思ってはみるけれど
何せステージでは徹子さんの「胸」についてトークが
繰り広げられているものだから、何となく顔が
引き締まらない。

NHKホール

結構長い時間に感じられた。

やがて、前奏が流れてきて、私たちは舞台の中央へ。
フランス語で「世界の果てに」「愛の讃歌」、そして日本語で
「ドミノ」を唄う。この「世界の果てに」の早口には
本当に苦労した。出来なくて出来なくて、夜中に練習しながら
何度も発狂しそうになったほど。アコーディオニストでもある
パトリック・ヌジェさんが、「ソコノ部分ハ、ワタシモ一度モ
パーフェクトニ唄エタコトガナイ」と仰っていた
「ソコノ部分」が私の担当だった。

ステージで右に左に動きながら、去年と全然違う自分に
気付いた。あの救いようのない怖さがない。
もちろん、ステージは常に「怖さ」と背中合わせだけど。
「NHKホールって、こんなに小さかったかな」と一瞬思った。
立川真利先生が仰っていた言葉を思い出す。
「あなたたちを舞台で動かせるのは、とにかく身体で、
舞台の大きさを感じてほしいからなのよ。今、これだけ
動いておけば、どの舞台に立っても怖くなくなるはず」
そうか、このことだったんだ。

NHKホール

そう気付いたら、俄然楽しくなってきた。
目一杯、弾けたい!これが、心と身体の開放なんだわ…。
あっという間にメドレーが終わり、しばし頭の中が真っ白。
気持ちのいい汗を掻いた。

1部の最後は石井好子先生の「私の神様」。
同じ岡山ご出身の木原光知子さん(高校の大先輩でも
いらっしゃる)と、舞台の袖でじっと聴き入った。

NHKホール

この後、地方公演でも毎回、石井先生のこの歌に
シビれまくった。
歌の前のセリフからして、すでに涙腺が弛んでくる。
「すごいなあ…」と、ミミさん(*木原さんの愛称)が
呟かれた。「あみちゃんもがんばらんとおえんで!
(*岡山弁で”がんばらなくちゃダメよ”という意味)」
と仰った。ほんと…がんばらなくちゃだ。

 

<19才とコロン>

二部は、まず神戸合唱団のステージからスタート。
私たちもパリっ子になりきって、ステージでスタンバイ。

NHKホール

自由に歩いたり、おしゃべりしたりしてよい、
ということだった。私は19才のShin太朗君と恋人の設定。
セーヌ川を見ながら、「愛し合う二人に言葉は要らないわ」
…くらいの熱々カップルを演じてみた。
後になって、何人かの人に「ああいう時って、何を
話しているの?」と聞かれたのだけど、聞いて
ガッカリかも…?だってね、私たちの会話ときたら
「あ、あそこに土左衛門が浮いてるわ」
「ほんとだね」…って、それくらいのものなのだ。
後で「くっつき過ぎなんじゃないか」とか、皆さんに
ご心配いただいたけどそういう反応があったことが、
私には不思議だった。
リハーサルでは、パトリック・ヌジェさんが舞台の裏
(客席からは見えない場所)セーヌ川を泳いで渡ったの。
あれには笑ったなあ。

NHKホール

そうそう、この時の秘話(?)がもうひとつ。
Shin太朗君とラブラブで寄り添ったはいいけれど、どうも
「?」なニオイが。「しんちゃん、このシャツさあ…
ずっとタンスにしまいっ放しだったでしょう?」と聞いたら
「わかりますか?」って…。
せっかくラブラブモードになろうとしてるのに、いまいち
雰囲気が出ない^-^
よって、翌日から彼は嶋本王子にもらったコロンを
身にまとってステージに立ったのでありました。
コロン初体験のShin太朗君!とてもうれしかったのか、
彼は地方でもコロンを身体に(大量に)ふりかけて、皆に
「お前、付け過ぎだよ〜」と、大人のたしなみを
教えられていた。かわいい19才。

 

<心と心>

今年のフィナーレは「歌おう愛の歓びを」だった。
ミッシェル・サルドー作曲、アン・あんどうさん訳詞の
この歌を私は今まで知らなかった。
唄っていて、心にズン…と沁み入ってくる名曲。




『歌おう 愛の歓びを
     世界の悲しみ超えて
          心と心をつなぐでしょう
              声を合わせ 歌おう』




こんなに素敵な歌と出会えて、素敵な方々と一緒にステージに
立たせてもらえて、素敵なお客さまにお目にかかれて…
幸せだなあ…と思わずにはいられない私の「パリ祭」…。
音楽を通じて、心がつながってゆく。

NHKホール

帰りに池田かず子さんが、同じ方向だから…とタクシーで
送ってくださった。
正直、足がパンパンだったので、かず子さんが神様に思えた。
本当にいつも変わらず、かず子さんはお優しい。
帰宅する前に、街の整体に出向いてマッサージを受けた。
担当のお姉さんに「相当、足腰にきてますねえ」と気の毒
がられる。あんまり気持ちよくて、途中眠ってしまっていた。
まだまだ地方公演も続くし、とりあえず身体をリセットして
おかなきゃ…ね。今、バテる訳にはいかないもの。
さあ、残りの公演…また気を引き締めて、がんばるぞ!

NHKホール

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